出会い

「わたしはホームレスの女の子を拾ったことがあるんだ」
 そう言われて「へえ、そうなんだー」ですませられる人はなかなかいない。
 たいてい「え? 猫とか犬のメス?」と聞き返して来る。
 ちがう。女の子。
 いや、わたしよりも5歳くらい年上だったから、「女の子」って言う表現はちょっと違うかもしれない。
 でも、彼女は「女の人」というよりは「女の子」だった。それは、「ロリコンタイプ〜★」いう意味じゃなくて、ただ単に「子供」だったから。

 出会いは渋谷の漫画喫茶だった。
 大きなテーブルに腰をかけて漫画を読んでいたら、目の前に大いびきをかいて寝ている女の子がいた。
 漫画喫茶で寝るのはいい。けど、そのいびきはどうよ? いびきの方向を軽くにらんだわたしの目に入ってきたのは、一冊だけ出した幻の(もう絶版なので)わたしの単行本。「地獄のベビー悪魔ちゃん」その単行本を顔の上に乗せ、彼女は寝ていた。
 いびきにムッとしていたわたしの気持ちはたちまち天に昇り、いびき少女が大好きになっていた。
 一時間も経ったころ、彼女は目を覚まし、伏せてあった漫画を読み出した。
 声をかけたのは、わたしからだった。
「あの……それ、おもしろいですか?」
 その問いに、彼女がどう答えたかは忘れてしまった。
 ただ、そこから会話が始まって、彼女が家出をしてきて現在ホームレスだということが分かった。
 家を出て3ヶ月ほどで(いや、6ヶ月だったかもしれない。よく覚えていない)、お金は全くなく、今日はたまたま収入があって、そのお金で屋根のある場所で寝たいと思い、ここに来たそうだ。
 彼女は、25歳。25歳まで守ってきた(?)バージンを2ヶ月前に牛丼一杯で売ったそうだ。
 恵比寿や渋谷の駅で寝ていて、たまにその牛丼の彼がやってきてはご飯を食べさせてくれたり(もちろんセックスはする)わずかなおこずかいをくれたりして生きいてるそうだ。
 わたしも堅実に生きているほうじゃないけれど、さすがに家のない生活、というのは考えられない。
 でも、彼女はあっけらかんとしていた。
 牛丼男に今日もらった千円を漫画喫茶で使い果たしてしまうほどに、ポジティブだった。というか、なんにも考えていないように見えた。
 それが、わたしには新鮮に映ったし、なんだか彼女に興味を持った。
「ゴホン、ゴホン」
 彼女がセキをした。聞けば、風邪をひいているのだそう。だから、今日は暖かい場所で寝たほうがいいと思ったらしい。
 牛丼男は、明日も来るとは限らない。
 そして、牛丼男が来なければ、彼女は明日の宿どころか食べ物にもありつけない。
「うち……来る?」
 わたしは思わず口に出した。
 ほんの何時間か前に会った人間である。
 そして、彼女は宿無しだ。
 風邪をひいている間だけうちに……というわけにはいかない。治ったら出て行け、なんて言えない。
 でも、猫の子とは違うから。人間だから。大人だから。大丈夫だろう。
 そう思ったのかもしれない。今となっては、はっきり覚えていない。
 もしかして、17歳から一人で暮らしてきたわたしは、ちょっと淋しかったのかもしれない(弟と暮らし始めるのは、もっと後のことです)。

 続く

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